合言葉「倒れるときは前へ」

20年ほど前の、私の職場での話です。(古くてすみません)
難攻不落な相手と交渉していた際に、同僚たちがこう声かけあって、笑いました。

『倒れるときは前へ』

その職場とは、ある会社の労働組合の書記局(いわゆるオフィス)。
難攻不落な交渉相手とは、その会社の経営者たち。
交渉の内容は、1年に1回行う賃上げ交渉です。

労働組合としては賃上げを要求し、勝ち獲ることを狙います。しかし、
その当時の日本は、ベアゼロ(賃金のベースアップ*1がゼロ円)が常識でした。
その中で、我が社だけが賃上げするなんてことは絶対ありえませんでした。

要求の素案を作り、組合の幹部たちと議論し、知恵を出し合い、要求を確定させていく…
ベアゼロはほぼ間違いないからこそ、出す要求とその根拠がむずかしい。
どれだけ時間をかけてもむなしさが漂う、納得いく要求にならない…辛く悔しい時間でした。

山の峰々

そんなときに、ある幹部が先の言葉を言ったのです。

『倒れるときは前へ』

この言葉が気持ちを場を和ませ、気持ちをほぐし、
そして闘争心を改めて掻き立ててもくれました。
(発言した幹部の、キャラクターや言い回しが、軽妙で実によかった)
この言葉は次第に合言葉のようになって、
ことあるごとに、幹部みんなで発するようになりました。

『倒れるときは…(声を合わせて)前へ』(みんなで爆笑)

高すぎる壁の前に倒れざるを得ない状況を、闘う前に真摯に受け入れて、
それでも何かを勝ち獲ろうと、手ぶらでは帰るまいと、
いささか自虐的でありながら、たくましくいようと、
お互いに励まし、団結させてくれた言葉でした。

自画自賛ではありますが、きちんとした交渉を行えて、
なおかつ成果を得た交渉ではあったと自負しています。

 

それでも会社との交渉はストレスがたいへんかかるものです。
「歴代の労働組合の書記長(交渉の事務方の長)はみんな、
交渉終了後に体調を崩すもんだよ。本当にお疲れさまでした。」
交渉を終えたとき、ある会社幹部はそう労をねぎらってくださいました。
私の場合は鼻の頭が黒く腫れて、丹毒と診断されました。疲れて免疫が低下していたようです。

あぁ、でもあの頃に、わたしたち労働組合たちがベアを勝ち獲れていたならば、
日本経済は良くなっていたのかもしれない…と責任や無力さを感じたりします。

ちなみに、私はその労働組合で、書記次長1年・書記長2年を務めました。その後、会社側の立場で数年に渡り労働組合を担当し、交渉も行いました。

*1:ベースアップとは、会社の従業員全員の給料を一律額もしくは一律の比率で昇給すること。

投稿者プロフィール

青木 亮
青木 亮くれたけ心理相談室(名古屋本部)心理カウンセラー
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